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千葉地方裁判所 昭和37年(わ)297号 判決

被告人 大木五郎 外二名

主文

被告人古出昇を罰金二万円に処する。

同被告人が右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

同被告人に対し、選挙権及び被選挙権を有しない期間を三年に短縮する。

同被告人に対する本件公訴事実中公職選挙法第二二一条第一項第一号の買収の点については、同被告人は無罪。

被告人大木五郎及び同高柳春雄は、いずれも無罪。

理由

第一被告人古出昇に対する公訴事実中有罪部分について。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三七年七月一日施行の参議院議員通常選挙に際し、千葉県地方区から立候補した柳岡秋夫の選挙運動者であるが、右柳岡が右選挙に右選挙区から立候補する決意を有することを知り、右選挙に関し、同人に投票を得しめる目的をもつて、未だ同人の立候補届出のない同年六月一日頃、いずれも右選挙区の選挙人である

(1)  千葉県佐倉市宮小路四五番地 宮下シカ子

(2)  同県同市宮小路四〇番地   関本冨美子

(3)  同県同市宮小路六一番地   但馬美代

(4)  同県同市宮小路四三番地   三柴敏子

(5)  同県同市宮小路四七番地   阿部よし

方各居宅を戸々に訪問し、右阿部に対しては同人方居宅縁側で、その他の右四名に対してはいずれも同人等方居宅玄関先で、右柳岡のための投票を依頼して戸別訪問をし、その際、右但馬を除く四名に対し、「私の政治信条」柳岡秋夫なる標題の下に、同人の写真を掲示し、その政見・経歴等を記載した・法定外の選挙運動のために使用する文書図画(昭和三七年押第一二〇号の八・三三枚と同一内容のもの)各一枚を配布して法定外選挙運動用文書図画を頒布し、以て立候補届出前の選挙運動をしたものである。

(証拠の標目)(略)

(確定裁判を経た罪)

被告人古出は、昭和三八年七月一〇日千葉簡易裁判所において、公職選挙法違反罪により罰金三万円に処せられ、当時右裁判は確定したものであつて、右の事実は、同被告人の当公判廷における供述と検察事務官作成の略式命令謄本とによつてこれを認める。

(法令の適用)

被告人古出の判示所為中・戸別訪問の点は公職選挙法第二三九条第三号第一三八条に、法定外選挙運動用文書図画頒布の点は同法第二四三条第三号第一四二条に、事前運動の点は同法第二三九条第一号第一二九条に各該当するところ、右戸別訪問及び法定外選挙運動用文書図画頒布はいずれも包括一罪であり、右と事前運動の三者は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段第一〇条により全部一罪として最も重い法定外選挙運動用文書図画頒布罪の刑に従い処断すべく、所定刑中罰金刑を選択し、右は前示確定裁判を経た罪と同法第四五条後段の併合罪なので、同法第五〇条により未だ裁判を経ない判示の罪について更に処断することとし、その所定罰金額の範囲内において同被告人を罰金二万円に処し、同法第一八条を適用して同被告人が右罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置すべく、公職選挙法第二五二条第四項により同被告人に対する選挙権及び被選挙権を有しない期間を三年に短縮し、訴訟費用は同被告人に負担させるのを相当としない。

第二本件公訴事実中無罪部分について。

一、本件公訴事実中無罪部分の訴因の要旨は次のとおりである。

被告人等は、昭和三七年七月一日施行の参議院議員通常選挙に際し、千葉県地方区から立候補した柳岡秋夫の選挙運動者であるが、

(一)  被告人大木五郎及び同古出昇は共謀の上、右柳岡に当選を得しめる目的をもつて、同年六月一日頃より同年同月二一日頃までの間、千葉県佐倉市新町所在の佐倉電報電話局内外一ヶ所において、但木昌一外三二名に対し、右柳岡のため戸別訪問等による投票取纒方の選挙運動を依頼し、その報酬として別紙一覧表(一)記載のとおり、右但木等に現金合計金三、七一〇円を供与し、

(二)  被告人大木五郎及び同高柳春雄は共謀の上、右柳岡に当選を得しめる目的をもつて、同年同月二五日頃より同年同月三〇日頃までの間、千葉県成田市成田三八三番地所在の成田電報電話局内において、秋葉正次外三名に対し、右柳岡のため戸別訪問による投票取纒方の選挙運動を依頼し、その報酬として別紙一覧表(二)記載のとおり、右秋葉等に現金合計金九〇〇円を供与し、

(三)  被告人高柳春雄は、右柳岡に投票を得しめる目的をもつて、同年同月三〇日頃右選挙区の選挙人である・千葉県成田市東峯一五〇番地堀越昭平及び同県同市天神峯一〇五番地大久保才司を戸々に訪問し、右柳岡のための投票を依頼し、以て戸別訪問をし

たものである。

二、右訴因(一)及び(二)について。

(訴因(一)の戸別訪問等による投票取纒方の選挙運動依頼の事実と金員授受の事実の存否)

(一)  被告人古出の当公判廷における供述、(中略)を総合すると、

(イ) 被告人古出は、昭和三七年度全国電気通信労働組合(以下全電通という)千葉県支部佐倉分会長で、昭和三七年七月一日施行の参議院議員通常選挙に際し、千葉県地方区から立候補した柳岡秋夫(当時全電通千葉県支部執行委員長)の選挙運動者であつたが、昭和三七年五月二五日頃同被告人が招集した右佐倉分会組合員の総決起大会の席上及び後記の各組合員の家庭訪問に赴く際、いずれも同分会の組合員である別紙一覧表(一)の受供与者欄記載の但木外三二名(以下受供与者という)に対し、右柳岡の選挙に協力を求め、調査カードに住所・氏名・職業を記入したものを一人当り一〇枚位交付し、右調査カードに記載してある・全電通の友誼単産の組合員の家庭を訪問し、右柳岡のための投票依頼をすると共に、前記柳岡名刺、柳岡紙片、政治信条及び柳岡ビラを配布することを要請したこと、

(ロ) 右要請に基き、昭和三七年六月一日頃但木昌一・同年同月四日頃谷口良子・岩井昭子(以上二人一組)・同年同月五日頃須藤栄子・小山志津子(以上二人一組)・同年同月六日頃橋本由二郎・斉蔵俊子(以上二人一組)・同年同月七日頃中村愛子・松井トシ子(以上二人一組)・河野俊恵・高科英子(以上二人一組)・同年同月八日頃清宮欽一・秋元寿子(以上二人一組)・同年同月一〇日頃植田方子・小川一幸・本多喜一(以上二人一組)・蓼沼富雄・同年同月一一日頃長谷川寿子・金子てい(以上二人一組)・同年同月一三日頃内藤雅夫・片岡久子(以上二人一組)・同年同月一五日頃小田切峯夫・平野久江(以上二人一組)・同年同月一六日頃大和田末吉・山本勝江(以上二人一組)・吉田愛子・古出寿子(以上二人一組)・同年同月一八日頃高山孝雄・高科輝雄(以上二人一組)・内田和子・同年同月中旬頃秋元弘・同年同月二一日頃篠田光・清田光(以上二人一組)が、夫々右選挙区内の選挙人方居宅数戸を戸々に訪問し、同家人に対し、右柳岡のための投票依頼をし、一部に右文書等を配布し、留守宅に右文書等を差し置くなどしたこと、

(ハ) 被告人古出が、別紙一覧表(一)記載の日(前記蓼沼に対しては行動前、その他に対しては行動後)・場所において、受供与者等に対し、右受供与者等の選挙運動に関し同一覧表記載の金員を渡したこと

が認められる。

(訴因(二)の戸別訪問による投票取纒方の選挙運動依頼の事実と金員授受の事実の存否)

(二)  被告人高柳の当公判廷における供述、(中略)を総合すると、

(イ) 被告人高柳は、昭和三七年度全電通千葉県支部成田分会長で、前記柳岡候補の選挙運動者であつたが、昭和三七年六月二三日か二四日頃いずれも当時の同分会役員である別紙一覧表(二)の受供与者欄記載の秋葉正次外三名(以下受供与者という)に対し、同分会員三〇名位と成田市在住の他の分会員五・六名位の各家庭を訪問し、右柳岡のための投票依頼をすることを要請したこと、

(ロ) 右要請に基き、昭和三七年六月二五日頃秋葉・同年同月二六日頃秋葉・大庫昭夫(以上二人一組)・武田善市・実川健彦(以上二人一組、一部は武田のみ)・大庫・同年同月三〇日頃秋葉が、夫々右選挙区内の選挙人方居宅数戸を戸々に訪問し、同家人に対し、右柳岡のための投票依頼をしたこと、

(ハ) 被告人高柳は、別紙一覧表(二)記載の日(昭和三七年六月二七日の大庫に対する分は行動後、その他に対しては行動前)成田電報電話局内において、受供与者等に対し、右受供与者等の選挙運動に関し同一覧表記載の金員を渡したこと

が認められる。

(右金員の授受は「供与」にあたるか)

(三)  被告人大木の当公判廷における供述、(中略)を総合すると、昭和三六年七月開催の全電通千葉県支部大会において、同支部が同支部所属の全組合員から一律一名当り金五〇〇円の資金(その目的が、所謂選挙対策資金であるか、所謂政治啓蒙資金であるかについて争いがあるが、この点について判断をしない)を臨時徴収する旨決議をし、右決議に基き、右佐倉分会、臼井分会及び成田分会の各組合員が昭和三六年一一月頃及び昭和三七年四月頃の二回に亘つて右支部に右臨時徴収資金を納入し(その額は、佐倉分会は組合員四四名分金二万二、〇〇〇円、臼井分会は同四五名分金二万二、五〇〇円、成田分会は同八八名分金四万四、〇〇〇円と認められる)、一旦右金員は同支部に帰属した後、昭和三七年五月九日各組合員の行動費として右金員の一部を還元するため、同支部から・千葉県労働金庫佐倉分会口座に金二万円、同成田分会口座に金二万円が夫々振込まれ、同年同月二一日佐倉分会名で、同年同月二八日成田分会名で、夫々右金の払戻を受け、更に同年六月頃同支部から佐倉分会宛金二万円が交付され、右佐倉分会は被告人古出の・成田分会分は被告人高柳の各手中に帰したこと、当時政治啓蒙運動或は選挙対策に関しては臼井分会は佐倉分会に従属していた体制にあつたので、右佐倉分会受取分は臼井分会を含んでいたこと、本件授受された金員はいずれも右金員の一部であることが認められる。

そこで、右のようにして佐倉・臼井・成田各分会に還元された金員の帰属について考えると、右挙示の証拠その他本件全証拠によつても、右支部が自己に帰属する金員の処分を被告人古出や同高柳、或いは各分会の選挙対策委員会の裁量に委ねたに過ぎないものであると断定するに足りない。右のように考えられるのと同じ程度の蓋然性をもつて、同支部が権利能力なき社団である各分会に帰属させ、従つて右金員が各分会組合員の総有に属することとなつたこと、又(佐倉分会の場合は比較的高い程度で、成田分会の場合は比較的低い程度で)右金員の処分につき総組合員の同意を以て定めがなされ、右各受供与者が本件各金員を受取つた際既にそれがそれ等の者に帰属していたことも考えられるのである。

公職選挙法第二二一条第一項第一号にいわゆる「供与」とは、受供与者の所属に帰せしめる意思で授与することをいい、それは、当然のこととして授与金員が受供与者のものでないことを前提とするものであるから、右のように授受された金員が受供与者等のものでないことの証明が充分でない(むしろ法律的見方をしばらく措くと、右金員は、各分会の組合員が自ら出捐した金員中その金額の範囲内で還元され、未だ各組合員自らの自由に使用できるものでないにしても、組合員のために使用できるものとなつたものであつて、前記(一)、(二)及び右挙示の各証拠によれば本件金員授受の当事者も右のように認識していたことが窺われるので、社会通念上は大よそ組合員の自己資金と同視してもよい事情にあつたと解される)以上は、本件金員の授与を「供与」と認めうるかについて疑義を抱かざるを得ず、消極に解するのを相当と考える。

(右授受された金員は選挙運動報酬であるか)

(四)  前記(一)、(二)及び(三)挙示の証拠中被告人古出及び同高柳の検察官に対する各供述調書並びに受供与者等の検察官に対する各供述調書中には、被告人古出及び同高柳が受供与者等に対し、選挙運動に対する報酬として本件金員を授与した旨を窺わせる供述記載が存するが、又反面右証拠中実費弁償乃至弁当代として授与した旨を窺わせる供述記載も存し、その他後記の諸証拠、諸事実に照し、右供述記載のみによつて本件金員が選挙運動報酬であると速断することはできない。事実の実態に即してその性質を判断しなければならない。

前記(一)及び(二)において一部認定したところであるが、前記(一)及び(二)挙示の証拠によると、受供与者は、夫々一日数時間に亘つて数戸を訪問しており、右各選挙運動に関して、従来全電通において組合員動員の場合に組合が組合員に対して実費弁償的に慣行として支給している日当(当時の全電通千葉県支部旅費給与規定では一日金二〇〇円)や交通費(右のような慣行があることは証人片平久雄及び同金子哲雄の各証言によつて認められる)と同様方法で支給され、佐倉分会にあつては一例外を除き後払、成田分会にあつては一例外を除き前払であり、日当分については一人一日分一〇〇円が漠然と弁当代などとして、前払のときは予め使途の明細及び後に精算すべきことを指示することもせず又後に精算することもせず、又後払のときは現実の出捐の有無及び使途の如何を問わず、交通費分については出捐実費を夫々支給されていたものであり、日当分については、受供与者等は、一、二の例外を除き支給金額と同額(又はそれ以上)乃至はこれに近い額の金員を食事代・茶菓代として出捐していることが認められる。

右金員が選挙運動報酬と認められるか否かの判断については、選挙運動に従事する者に対し支給することができる実費弁償の額について規定している公職選挙法第一九七条の二につき検討する要がある。

まず、右法条によつて支給することができる実費弁償にあたる場合、このような金員が選挙運動報酬といえないことは疑いがない。ところで右法条により実費弁償が支給できるのは、適法な選挙運動に必要である場合に限られ、違法な選挙運動のための費用については支給が許されないことは異論がない。而して、前記(一)認定の被供与者等のなした行為は、明らかに戸別訪問及び法定外選挙運動用文書図画の頒布、前記(二)認定の被供与者等の行為は、明らかに戸別訪問としていずれも公職選挙法に違反する選挙運動であるといわねばならない(前記(一)認定の行為に関し、被告人古出が被供与者等に対して家庭訪問の目的として電話事情調査と選挙用葉書発送のための住所確認を併せ指示したものであることは、これを窺うべき事情が全然ないわけではないが、たとい右の目的が随伴していても右の結論は異ならない。又前記(二)認定の行為に関し、棄権防止の呼びかけの目的があつたことは前記挙示の証拠上認めることができない。)然らば、たとい実費弁償としてでも、右各受供与者等に対しこれを適法になされることはできないものである。

然し、右法条により適法になされえないにしても、金員の支給が実質的に右法条にいう実質弁償にあたる場合には、尚報酬性を欠くものとして買収罪は成立しないものというべきである。けだし、一概に選挙犯罪といつても、その性質上実質犯と形式犯の二種があり、両者は異質の犯罪であると解すべきであるが、右法条により許されない金員の支給が何等かの法条により犯罪とされることがあつてもそれはあくまで形式犯の範疇に止るものであつて、それ自体として直ちに実質犯たる買収犯に変質するいわれはなく、後者が成立するためには尚積極的に報酬性が要件として附加されるのでなくてはならないからである。(適法な実費支給が行われえない場合には、その費用は行為者自身が負担すべきものであり、これを補填する点に報酬性が認められることになるから買収罪の成立を認めるべきであるとする説があるが、本来異質な選挙運動報酬と実費の補填という二つのものを混同する考え方で採用できないし、又公職選挙法第一八七条が通常違法な選挙運動費用を含まないと解されるところから、右判示の如く解することは違法な選挙運動の費用の支出を野放しにすることになつて不当である旨の説があるが、政策論であつて刑罰法規の解釈としては到底採用できないところである。)

而して、公職選挙法第一九七条の二第一項第一号所定の実費とは、社会通念上当該の具体的選挙運動をするにつき同条同項同号(い)乃至(へ)の費用を必要とすると認められるときその費用をいうものと解すべきであり、それ以上、同額の現実の出捐のあることや精算をすることを要件とせず、又予定された選挙運動をしないときは返戻する趣旨のものであれば前払をもなしうるというべきである。(出捐がない場合は実費弁償はありえずとし、又原則として前払をなしえず、前払がなされるためには前払の当時その使途が具体的に予定され、かつそれが正当な実費であることが後日領収書その他の資料によつて個々に証明せられるような方法を以て支給されなければならないとする考え方は、実費弁償に名を藉りて選挙費用の放漫な支出をする弊を防ぐためには一応尤もな解釈といえるが、右の目的を達するためには、現実に行われた選挙運動の実態に照らして、社会通念上実費を要する場合であるか、支給すべき額はいくらが妥当かを判断した上前記法条の適用不適用を決すれば足りると考えられるし、たまたまその選挙運動中出捐がなかつたとしても何等かの形でその選挙運動に相応した損失が発生していると考えられ、これに対し社会通念上妥当と思われる金員の支給を以て填補することは事理に適うものであり、前記所説の如く一律に厳格に解することは事の実態に適する妥当な解釈とは考えられない。)右の考え方に従つて本件を見ると、前記認定のように前記の厳格な実費解釈によると実費といいえない要素は存するが、交通費については正に出捐額相当の実費であり、日当分についても、前記認定の被供与者のなした具体的選挙運動をなすには社会通念上一人一〇〇円程度の弁当代を必要とすると認めるのが相当であり、前記法条所定の弁当代よりはるかに低く、又全電通千葉県支部旅費給与規定による日当の半額に過ぎないことを考え合せると、本件金員の支給は結局右法条にいう実費弁償にあたるものと認めるべきである。

更に、たとい右支給が前記法条にいう実費弁償という概念に包含されないとしても、右述の本件金員の実費的性質、前記(一)及び(二)挙示の証拠により認められる、本件金員授受の当事者が実費弁償的に慣行として組合員に支給されている動員費として授受する旨の認識をもつていたこと、前記(三)判示の右金員の資金源の客観的及び主観的性格及び前記(一)及び(二)挙示の証拠によつて認められる受供与者等は、概ね前記柳岡候補の支持者であり、右金員の支給に影響されてことさらに活発な運動をしたという事情はないと認められることを併せ考えると、本件金員が選挙運動報酬として授与されたものと認めることはできない。

(五)  以上説示したとおり、被告人古出及び同高柳が本件各金員を被供与者等に対し選挙運動に対する報酬として供与したことにつき証明がないことに帰する。(従つて、被告人大木と同古出及び同高柳との共謀の有無については判断するまでもない。)

三  右訴因(三)について。

被告人高柳の当公判廷における供述、同被告人の検察官に対する昭和三七年八月九日付及び同年同月一三日付各供述調書並びに堀越昭平及び大久保才司の検察官に対する各供述調書を総合すると、被告人高柳が昭和三七年六月三〇日午後四時頃堀越昭平及び大久保才司方各居宅を訪問した事実が認められ、同被告人の検察官に対する右各供述調書並びに堀越昭平及び大久保才司の検察官に対する右各供述調書を総合すると、同被告人の右各訪問の目的が前記柳岡候補のための投票依頼にあつたと認定できるようであるが、同被告人の検察官に対する右各供述調書には、虚偽の多数の戸別訪問事実が記載せられていたり、訪問の経過について供述を変更したりして、全体として信憑力が稀薄であり、堀越及び大久保の検察官に対する右各供述調書も亦、右投票依頼の目的をもつた訪問であることについての証明力は弱いし、その他右目的を証明すべき証拠はないので、右の点についての心証をえがたく、却つて、被告人の当公判廷における供述(電信電話綜合地図を含む)、右供述によつて認められる被訪問者等の居宅がいずれも辺地にあることから考えて、特に右二戸の戸別訪問をなすことが稍不自然であると認められること及び堀越及び大久保の検察官に対する右各供述調書を総合すると、同被告人が投票日における投票所対策としてポスター貼り出しとはがれたポスターの補修のために右訪問者等方居宅附近に至つた際、たまたま顔を合せた旧知の右堀越方に挨拶に立寄り柳岡候補のための応援に活動している旨の話をし、また右大久保に呼びとめられて柳岡候補のための投票依頼をするに至つたものであるとも窺われるのであり、結局同被告人が柳岡候補に投票を得させる目的で訪問したとの点は証明がないことに帰する。

四  よつて、右(一)乃至(二)の各訴因については、刑事訴訟法第三三六条に則り無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 環直弥)

(別紙一覧表(一)(二)略)

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